花様年華 the notes

【BTS防弾少年団】花様年華 the notesの日本語訳(翻訳)・時系列・考察まとめ

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【BTS防弾少年団】花様年華 the notesの日本語訳(翻訳)・時系列・考察まとめ

花様年華 the notesとは何?

そう思っているARMYが多いはず。
壮大なストーリーが続いている花様年華。

数年前から謎解きのような物語が続いていました。

花様年華からLOVE YOURSELFの物語へと続いているのです。

花様年華 the notesは、BTSメンバーそれぞれの日記のようなものです。

「どれから読んだら良いかわからない。」
「韓国語が読めない」

というARMYのために花様年華 the notesをまとめました。

上から順番に読んでいけば良いように、日記の日付け順にしました。
(花様年華 the notes公開順ではありません)

もし順番が違った場合は書き込み宜しくお願いします。
考察があれば、コメントの書き込みをお願いします。

花様年華 the notes・時系列・早見一覧

花様年華 the notesを時系列にまとめました。

  • 10/7/23 【ホソク】母に捨てられた過去を思い出す。
  • 10/12/29 【テヒョン】父親に暴力を振るわれる
  • 11/4/6  【ジミン】遠足で草花樹木園を一人で出た日。
  • 16/9/19 【ユンギ】 ユンギの家が火事で母親の死
  • 19/3/2  【ジン】アメリカから帰国して1学年下で学校入学
  • 19/6/12 【ユンギ】皆で学校をさぼって海へ向かう。
  • 19/8/30 【ジミン】入院しがちで、退院&転校を繰り返す。転校先でホソクと知り合う。学校の帰り道、一緒に帰る。
  • 20/3/20 【テヒョン】ジンが校長先生にアジトの話をちくっているのを聞く
  • 20/5/15 【ナムジュン】引越しが決まり、最後の登校日。アジトで「また会おう」と窓に落書き
  • 20/5/20 【テヒョン】父を殺しそうになる
  • 20/6/25 【ジョングク】アジトでジョングクが先生に殴られる。ユンギが先生に反抗し退学という噂。
  • 20/6/25 【ユンギ】焼け焦げた鍵盤を封筒から出す。退学の知らせを受ける。
  • 20/7/17 【ジン】夏休みが開始。ジンのなんらかの行動でシュガが退学に繋がる
  • 20/9/15 【ホソク】ジミンが発作を起こし病院へ。ジミンの母親と壁を感じる。その日以降ジミンは学校へ来ない。
  • 20/9/28 【ジミン】入院中。記憶がないと医者に嘘をつく。
  • 20/9/30 【ジョングク】まだアジトに行っているのかと怒られる
  • 21/2/25 【ホソク】薬を飲むように。ダンスを踊っている時が自分自身になれる時。
  • 21/12/17 【ナムジュン】バスに乗り、昔いた場所に戻る
  • 22/4/7 【ユンギ】高校を辞めてから初めてグクと再会する。
  • 22/4/11 【ジン】一人で海へ。その後ナムジュンが働くガソスタへ行く。
  • 22/4/11 【ナムジュン】テヒョン・ホソクとコンテナにいる。テヒョンが警察に捕まりかけた。
  • 22/4/11 【ジョングク】道で不良に殴られる。義理の父と兄に虐められていて、工事現場の屋上で自殺を考える。
  • 22/5/19 【ジミン】草花樹木園に行こうとするが怖くて動けない。ユンギが隣に座る
  • 22/5/20 【ホソク】テヒョンが警察に捕まっているのを迎えに行く
  • 22/5/22 【テヒョン】ヒョン(ジン?)が電話しているのを聞いて怒りがわく。
  • 22/5/22 【ナムジュン】ジョングクがナムジュンのようになりたいと言う
  • 22/5/22 【ジョングク】事故にあう。動けない中で誰かの声が聞こえる
  • 22/5/31 【ホソク】友人に母を感じる。7歳の頃の母とのことを思い出す
  • 22/6/08 【ユンギ】携帯で誰かから連絡を受ける
  • 22/6/13 【ジン】(海での事件のあと)ホソクからグクの事故の話を聞く
  • 22/6/15 【ユンギ】ジョングクの事故を知り病院へ駆けつける
  • 22/6/26 【テヒョン】コンビニで誰かに後を付けられる
  • 22/6/30 【ナムジュン】黄色のゴムの後ろ姿を探している
  • 22/7/3  【ジミン】ホソクに認められたくてダンスを練習
  • 22/7/4  【ジミン】女性とダンスの練習中、ぶつかりけがをさせる
  • 22/7/4 【ホソク】彼女の海外行きを知る
  • 22/7/13 【ナムジュン】寝ている女性に声をかけようか悩む
  • 22/7/16 【ジョングク】窓辺でイヤホンを片耳にはめて歌っている。
  • 22/7/17 【テヒョン】彼女がいなくなり探し回る
  • 22/7/26 【ジョングク】病院の彼女に花をもってきたがいなくなっていた
  • 22/8/3  【ジン】一人アジトに行く
  • 22/8/15 【ジン】スメラルドの花を探す。「いい人になりたい」
  • 22/8/15 【ジン】彼女が交通事故にあう瞬間を目撃

花様年華 the notes・ホソク 10/7/23

BTS

3つ数えると幻覚のような笑い声が聞こえてきた。
次の瞬間、小さい頃の僕は誰かの手を握って通り過ぎた。

すぐに振り返ったが、僕をじっと見つめている同級生は誰もいなかった。

「ホソガ」
先生は僕の名前を呼んだ。

そこで僕は何処にいるのか気がついた。
クラス遠足だった。

教科書に描かれた果物を数えた。

5、6、僕は数え続けたが声が震え手には汗をかいていた。

あの時の記憶が浮かんできた。
僕はあの日のお母さんの顔をハッキリ思い出せなかった。

遊園地を見回した時、お母さんが僕にくれたチョコレートを思い出した。

「ホソガ、10まで数えたら目を開けて」
僕が数え終えて目を開けたら、お母さんがいなくなっていた。

僕は待ち続けたが戻ってくる事はなかった。

僕は9まで数えるだけだった。
僕があと1多く数えたならば何か変わっていただろうか。

だけど、僕の声が出ない。
耳鳴り響き、僕の周囲が曇って見えた。

先生は指をさし続け、数えるように言った。
僕の友達は僕を見つめていた。

僕はお母さんの顔を思い出せない。
僕がもう1つ数えたらお母さんは僕のために戻ってこないようにも思えた。

丁度その時、僕は地面に倒れた。

花様年華 the notes・テヒョン 10/12/29

花様年華 the notes・テヒョン 10/12/29

靴を脱ぎっぱなしにして、カバンを放り投げてリビングに入った。
本当に父さんがいた。

どれくらいぶりなのか、どこに行ってたのか、そんなことは思いつきもしなかった。
何も考えず父さんの胸へ飛び込んだ。

その後のことはよく覚えていない。
酒の匂いが最初だったのか、罵りが最初だったのか、頬を殴られたことだったのか。

なにが起きているのかも分からなかった。
酒の匂いがする荒い息遣いと、口臭。

眼は血走り、髭は荒れ放題だった。

大きな手が頬を叩いた。
何か見ようとするとまた頬を叩かれた。
そして俺は宙に持ち上げられた。
真っ赤な目が怖かったけど、恐怖で泣くこともできなかった。

父さんじゃなかった。
いや、父さんだった。
でも、違かった。

ふたつの足が宙に揺れた。
次の瞬間、壁に頭を強くぶつけられ床に転げ落ちた。
頭が割れるようだった。

視界がぼんやりしてたちまち真っ暗になった。
息を切らした父さんの呼吸音だけが頭の中に響いた。

花様年華 the notes・ジミン 11/4/6

花様年華 the notes・ジミン 11/4/6

一人で草花樹木園の正門を出た日。
曇っていて少し寒かったけど気分は良かった。

遠足の日だったのにお父さんもお母さんも忙しかった。それで最初はちょっと落ち込んでいた。

ところが花を描く大会で賞賛を受け友達のお母さんが「ジミンは本当に立派だね」と褒めてくれた。
その時から僕が少し誇らしく感じた。

「ジミンここで待ってて先生すぐ戻ってくるから」

遠足が終わって樹木園を出る時に、先生が呼びかけたが僕は待たなかった。
一人でも行ける自信があった。
両手でリュックサックの紐をぎゅっと握って、堂々と歩いた。

みんな僕を見ているように感じ、さらに肩を張る。

雨が降り始めたのがしばらく過ぎた後だった。
友達もそのお母さん達も立ち去り見てくれる人もいないし足も痛かった。

リュックサックで頭を隠して木の下にうずくまった。
雨はますます激しくなってきたし行き来する人は誰もいなくなった。

結局、雨の中を走り始めた。
家もお店も見えなかった。

そうしてる間に到着した所が樹木園の裏門だった。
くぐり戸が開いていて内側に倉庫のようなものが見えた。

花様年華 the notes・ユンギ 16/9/19

花様年華 the notes・ユンギ 16/9/19

赤い炎が燃え上がった。
今朝まで僕が住んでいた家は炎に包まれていた。

僕に気がついた人達が走ってきて何かを叫んだ。
町の人達が小走りでやってきた。

進入路の確保ができない、消防車が入ってこれない等と。

その場に立ち止まった夏の終わり・秋の始まりだった。

空は青く空気は乾燥していた。
何を考える必要があるのか。
何を感じる必要があるのか。
何をする必要があるのか。

何1つ分からなかった。

そうだ!
「あっお母さん」っと思った瞬間、ドンッという音と共に、炎に包まれた家が崩れ落ちた。

いや、これは家が屋根が柱が壁面が炎そのものになっていた。
僕が住んでいた部屋がまるで砂で建てた家のようにさらっと崩れ落ちていった。

呆然としてその姿を眺めた。

誰かが僕の横を押しのけ過ぎて行った。
消防車が入ってこれたのだ。

他の誰かが僕を掴まえて問い詰めた。
その人は僕の目を見ながら何かを叫んだ。
僕は一つも聞こえなかった

「誰が中にいるのか?」

僕はぼんやりその人を見つめた。

「お母さんが中にいるのか?」
その人が僕の肩を掴んで揺さぶった。

無意識に答えた。

「いいえ誰もいません」

「何を言ってるの?」
近所のおばさんが言った。
「お母さんは?お母さんはどこに行ったの?」

「 誰もいません。」
僕が何を言っているのか僕自身も分からなかった。
誰かが僕をサッと押しのけて通り過ぎて行った。

花様年華 the notes・ジン 19/3/2

花様年華 the notes・ジン 19/3/2

父に連れられて入った校長室は、湿った匂いがした。
アメリカから戻って10日目。
制度が違うため、1学年下に入学するという話を聞いたのは昨日だった。

「よろしくお願いします。」

父が肩に手を乗せると僕は知らないうちに身体が竦んだ。

「学校は危険な場所です。統制が必要です。」

校長は僕を真っ直ぐに見つめた。
校長が話をする度、シワシワの頬と口の周りの皮膚が揺れ、黒っぽい唇の内側は赤黒かった。

「ソッチン君はそう思いませんか?」
突然の質問に僕が戸惑うと、父が僕の肩に乗せた手に力を入れた。
筋肉が痺れる位の握力だった。

「ちゃんと過ごす筈です。」

校長は執拗に視線を合わせ、父は手に少しずつ力を加えていった。

肩の骨が折れるような苦痛があり、僕は拳を握りしめた。
体がブルブルっと震えて冷や汗が出た。

「必ず私になんでも話をしなさい。ソッチン君はいい学生にならないと」

校長は素っ気ない表情で僕を見つめた。

「はい。」
と、返事をすると苦痛は一瞬に消えさった。

父と校長が笑う声が聞こえた。
顔を上げることができなかった。
父の茶色い靴と校長の黒い靴を眺めていた。
どこから光が入ってくるのかわからないが、ピカピカしたその輝きが怖かった。

花様年華 the notes・ユンギ 19/6/12

花様年華 the notes・ユンギ 19/6/12
無計画なまま学校をさぼって出てきたのに行き場が無かった。
暑いし金もないしする事も無かった。
海に行こうと誘ってきたのはナムジュンだった。
弟達はうかれていたが僕はあまり浮かれはしなかった。

「お金はあるのか?」
僕の言葉をきっかけに、ナムジュンが皆のポケットからお金を出させた。

小銭といくつかの紙銭、行けないじゃないか。

「歩いていけばいい」と言ったのはおそらくテヒョンだったと思う。

ナムジュンがどうかもう少し考えてくれというような顔をしているように見えた。

みんな無駄話をしたり、笑ったり、道端にゴロゴロと転がる振りをしたりしながら道を歩いた。

僕は返事をする気分になれずそのまま後ろへ下がった。

光が熱い真昼の街路樹にさえも影を作れなかった。
歩道のない道路の上を車が土ぼこりを飛ばして過ぎていった。

「あそこに行こう」今回もテヒョンだった。いやホソクだったか。

興味がなくて良く見なかったけれど二人のうちのどっちだったか。

頭を下げて地面を蹴りながら歩いていたら僕は誰かにぶつかり転びそうになった。
ジミンがその場所に打ち付けられたように立っていた。

何か怖いものを見たかのように顔の筋肉がブルブルと震えていた。

「大丈夫か?」と尋ねたが聞いていないようにみえた。

ジミンが見つめている先には『草花樹木園 2.1Km』という標識が立っていた。

「歩きたくないです」
ジョングクの言葉が聞こえてきた。

ジミンの顔から汗がぽたぽたと流れた。
今でも崩れ込みそうだった。
イヤな気がした。

「パクジミン」と呼んでも全く動かなかった。

頭をあげて再び標識を見た。

「なあ、暑いのに何が樹木園なんだよ、海まで行ってみよう。」
僕は不愛想に言った。

草花樹木園がどのような所なのかさえ知らないが行っては行けないように感じた。

でも理由は分からないが、ジミンの様子がおかしかった。

「金欠だって言うから」 僕の言葉にホソクが「歩いていこう」って返事をした。

テヒョンが「汽車駅まで歩いていけば何とかなるようだ」と。
「その代わり夕食は抜きにする」と、ナムジュンが言った。

ジョングクとテヒョンが泣きだし、ソクジンヒョンが笑った。
ジミンがまた歩き始めたのは、みんなが汽車駅へ向かう道に入った所だった。

頭を下げ肩をすくめて歩くジミンはとても小さい子供にみえた。
僕はまた標識を見上げた。

『草花木樹園』
五文字が徐々に離れていった。

花様年華 the notes・ジミン 19/8/30

ホソギヒョンが電話をしている間、僕はヒョンの影が映っている地面を足で踏みつけながら遊んでいた。
ヒョンはヒヒっと笑いながら「パク·ジミンは成長したなぁ」と言う顔をしていた。

学校から家まで歩いて2時間かかった。
バスに乗ると30分もかからず、大きい通りを通って20分は短縮できる。
それでもヒョンはいつも曲がりくねった通りと、緩い坂道を通り橋を渡る道にこだわっていた。

退院後、転校したのは去年だった。
学校は家から遠くて、知ってる人は誰もいなかった。
大丈夫だと思った。
既に何度も転校したし、またいつ入院するか分からないから特別な事ではないと思って
いた。

そうしてヒョンと知り合った。
新学期が始まり少し経ってからだった。
ヒョンは何事もないように近づいてきて2時間僕と一緒に歩いた。

家の方向が違うと知ったのはその後だいぶ経ってからだった。
僕はヒョンに「何故?」と聞くことができなかった。

並んで歩いてくれる影が、一緒に歩く日差しの下の2時間が一日でも長く続いてくれることを願っていた。

僕はまだ電話をしているヒョンの影を踏みつけ逃げ出した。
ヒョンが電話を切って追いかけてきた。

暑い日差しの中でアイスクリームがドロドロと溶け出し、蝉の音が耳に入ってきた。
急に怖くなった。
こんな日はあとどれぐらい残っているだろうか?

花様年華 the notes・テヒョン 20/3/20

僕は廊下で滑って転んだ。
僕の足が騒がしい音を出した。その後僕は立ち止まった。

僕は、「僕達の教室」の前にナムジュ二ヒョンが立っているのが見えた。
「アジト」誰も知らない場所。
僕達はその場所を「アジト」と呼んでいた。

僕とヒョン達とジョングクそれは僕達のものだった。

僕は息を止めて近づいた。
僕は彼らを驚かせるつもりだった。

後、5歩という時に教室の開いている窓から「校長先生」と、聞こえてきた声はソクジンヒョンのようだった。
僕は歩くのを止めた。

ソクジンヒョン今何を話していたのですか?
僕達の教室でなぜですか?

僕は僕の名前とユンギヒョンの事を聞きナムジュニヒョンが驚いて息を呑んだのが分かった。
それを感知したかのようにソクジンヒョンは突然ドアを開けた。

ソクジンヒョンの手には電話があった。
ヒョンのショックと混乱はヒョンの顔からはっきり伝わってきた。

ナムジュニヒョンの顔を見る事が出来なかった。
僕は隠れて見ていた。
ソクジンヒョンは混乱して見えた。

「ヒョンには何か理由があったに違いない」そう話した後、ナムジュニヒョンはソクジンヒョンを通り過ぎて教室に入っていった。

僕はそれを信じられなかった。
ソクジンヒョンはここ数日ユンギヒョンと僕がやった事を校長先生に話したのだ。

クラスから飛び出して、壁を乗り越えて他の奴とふざけあったりした話だとか。
全てを語った。
だけど、ナムジュニヒョンは大丈夫だと言った。

「 ここで何してるの?」 ホソギヒョンとジミンだった。
ホソギヒョンは僕より衝撃を受けたふりをして(ふざけて)腕を僕の肩の上に乗せた。

混乱の瞬間にホソギヒョンが僕をその教室に連れていこうとした。

ナムジュニヒョンとソクジンヒョンが話をしていて、そして、彼らを見上げた。

ソクジンヒョンは突然起きて「何かが起こった」といった。
ヒョンは教室を出ていった。
僕はナムジュニヒョンの表情を見た。ヒョンはソクジンヒョンの後ろ姿を見ていた。しかし、その時まるで何も間違っていなかったようにヒョンは笑った。
その瞬間、僕には考えが浮かんだ。

ナムジュニヒョンには理由があったに違いない。
ヒョンは僕より多くの事を知っていて、さらにスマートで年上だったから。
それからここは僕達のアジトだったので僕は愚か者を笑ってる教室に入った。

花様年華 the notes・ナムジュン 20/5/15

行く場所がなかった僕たちのアジトになってくれた倉庫の教室を横切りながら、僕はいくつかの椅子をまっす
ぐに戻した。
ついでに倒れた机も戻し、埃は手のひらでさっさと拭いた。

最後というのは人を感傷的にするものだ。
今日は学校に来る最後の日だ。
引っ越しが決まったのは2週間前だった。

もしかすると二度と戻ってくる事はないかもしれない。
兄や弟たちと二度と会えないかも知れない。

紙を半分に折って、机の上に置き鉛筆を持ったけれどどんな言葉を残したらいいのかがわからなかった。
ただ時間だけが過ぎていった。

とりとめのない言葉を書いてる途中、鉛筆の芯がぽきっと折れた。

「生き残らなければならない」
鉛筆の芯が折れ、破片のような跡が残った紙には、僕が知らないうちに書き留めた落書きがあった。

黒鉛と落書きの間に、「貧しさ」「両親」「兄弟」「引っ越し」
と、ジメジメした言葉が散らばっていた。

紙をぐちゃぐちゃにしてポケットに入れ、その場から立ち上がった。

机を押すと埃が舞い上がった。

そのまま立ち去ろうとしたが、汚れた窓に息を吹きかけ文字を残した。
どんな挨拶も十分ではなく、何も話さなくても全て伝わるはずだ。

「また会おう」

約束というよりは願いだった。

花様年華 the notes・テヒョン 20/5/20

手を見ると血がついていた。

急に足の力が抜けて座り込もうとしたら誰かが後から抱きしめてきた。
窓からぼやけた日差しが入ってきた。

お姉さんが泣いていてホソギヒョンは無言で立っていた。

汚い家具や布団がいつものように散らばっていた。

父親が立っていた場所には誰もいなかった。

いつどうやって部屋を抜け出したか思い浮かばなかった。

父親に向かって飛びかかった瞬間の耐える事の出来ない怒りと悲しみは僕の中にそっくりそのまま残っていた。

父親を刺そうとした瞬間、僕を自制させたのが何なのか僕自身も分からなくて、心をどのように慰めたらいいのかも分からなかった。
父親を殺すのではなく、僕が死にたかった。
そんな事ができるのであれば、この瞬間にでも死んでしまいたかった。

涙もでなかった。
泣きたいのに大声を出したいのに足で蹴って全てをぶっ壊してしまいたいのに、何一つどうする事も出来なかった。

ヒョンごめんなさい。僕は大丈夫だから。だと?

心とは違う、乾いたようにでた僕の声みたいだった。

なかなかその場を離れようとしないヒョンを送ろうと手の平を見下ろすと、白い包帯の上に血が滲み出ていた。
父親を刺すかわりに酒ビンを床に打ちつけた時、粉々になって手の平が裂けた。

目を閉じると世界がグルグルと回った。

何を考えるべきか、どうすれば良いか、どうやって暮らすか。
我に返った時に、ナムジュニヒョンの電話番号を見ていた。

このような状況になってからよりもっとヒョンの存在が切実になった。
ヒョンに話したかった。
ヒョン、僕が父親を、僕を生んでくれた父親を、毎日犬をぶん殴るように僕のことをぶん殴る父親を殺すところでした。
本当に殺すところでした。
いや、実際には死にました。殺した。心の中で数えきれないほど殺した。
殺したい死んでしまいたい。
今どのようにすれば良いのか、何も分からない。

ヒョンにただ会いたいです。

花様年華 the notes・ジョングク 20/6/25

ピアノの鍵盤を手で撫でると埃が付いた。
指先に力を入れると、ヒョンが弾いたものとは違う音が出た。

ヒョンが学校に来なくなり10日が過ぎた。
今日は退学になったという噂が流れた。

ナムジュニヒョンやホソギヒョンは何も話してくれなくて、僕は何だか怖くて聞くことができなかった。

2週間前のあの日、先生がアジトの教室のドアを開けて入ってきた時、ここにいたのは僕とヒョンだけだった。

保護者参観の日だった。
教室にいるのが嫌で、あてもなくアジトに向かった。

ヒョンは振り返ることなくピアノを弾き、僕は机二つを合わせて寝そべりながら、寝たふりをして目を閉じた。

ヒョンとピアノは、ふと考えると異質的に感じるが、引き離す事ができないほど一つだった。

ヒョンのピアノを聞くと何故だか泣きそうになった。
涙が流れそうになったので寝返ったが、ドアが壊れるような勢いで開き、ピアノの音もぴたっと止まった。

僕は頬を殴られ後ずさりしたが、結局倒れてしまった。

しゃがんだままで罵られるのを我慢していると、突然声が止まった。

顔をあげるとヒョンが先生の肩を押し、僕の前に立ち塞がっていた。
ヒョンの肩越しから先生の動転した表情が見えた。

ピアノの鍵盤を押してみた。
ヒョンが弾いた曲の真似をしてみた。

ヒョンは本当に退学になったのだろうか?
もう戻ってこないのだろうか?

何発か殴られ何回か蹴られることは、ヒョンにはよくあることだと言っていた。

もし僕がいなければヒョンは先生に反抗しなかったのだろうか?
もし僕がいなければヒョンはまだここでピアノを弾いていたのだろうか?

花様年華 the notes・ユンギ 20/6/25

バタンと扉を開け、机の引き出しの一番下に入れていた封筒を取り出した。

開けてみると中からピアノの鍵盤1つ、コロンと言う音を立てながら落ちてきた。

半分焼け焦げた鍵盤をゴミ箱に投げ入れベッドに横になった。
苛立つ気持ちが冷めず、呼吸は荒く指先にはいつの間にかススが付いていた。

葬式が終わり火事で焼けた家に一人で行った事があった。
母の部屋に入ると原型を留めていない焼け焦げたピアノが目に入った。
そのすぐ側にしゃがみ込んだ。

午後の日差しが窓を越えて差し込んで来た。
気持ちが落ち着くまでの間、そのままそこに座っていた。

日が暮れる直前に鍵盤の幾つかが転がっているのが見えた。

「押すとどんな音が出るのだろう」
「音の出る鍵盤はあるだろうか」
「母の指がどれほど多く触れただろうか?」
と、考えた。

その中の1つをポケットに入れ部屋から出た。

それから約4年が過ぎた。
家の中は静かだった。狂うほと静かだった。

10時が過ぎて父親は寝ただろうし、その後はじっと息を殺さなければならなかった。
それがこの家の規則だった。
僕はこんな侘しさにほとほと疲れていた。

決められた時間に合わせ規律と形式を守ることも簡単なことではなかった。
しかしそれよりもっと我慢できなかったのは、それでも僕がまだこの家に住んでいることだった。

父からお小遣いをもらい、父と食事をし、父の愚痴を聞いた。

騒いだり反抗したり揉め事を起こしたり、父を捨て、この家を出て一人になり言葉だけではない本当の自由を現実化する勇気が僕にはなかった。

ベッドからすかさず起き上がった。
机の下のゴミ箱から鍵盤を拾い上げた。

窓を開けると夜の空気がすごい勢いで入ってきた。
今日1日あった出来事がその風に乗って頬を殴るように伝わってきた。
その空気の中に鍵盤を思いっきり投げつけた。

今日で学校に行かなくなって10日が過ぎた。
退学処分を受けたという知らせを聞いた。
もう僕が望まなくてもこの家から追い出されるかもしれない。

耳を傾けたけれども鍵盤が床に落ちる音が聞こえなかった。
いくら一生懸命考えてもその鍵盤がどんな音を出していたか知ることは出来ないだろう。
どんなに多くの時間が経ってもその鍵盤がまた音を出す事はないだろう。

僕はもうピアノを弾く事は無い。

花様年華 the notes・ジン 20/7/17

学校の玄関から出たらセミの音が響いて痛い。

運動場は笑ってふざけたり競争にかけっこをする子供達でにぎわっていた。

夏休みが始まってみんなは浮かれていた。
そんな彼らの間を頭を下げながら歩いた。
早く学校を抜け出したかった。

「ヒョン」 誰かの影がパッっと跳ねて現れたので、驚いて頭を上げた。

ホソクとジミンだった。
いつものように明るく笑顔を浮かべては人懐っこい目で僕を見た。

「今日から夏休みなのにどこに行くんですか?」
ホソクは腕を掴みながら聞いてきた。

僕は「おお」と、対して意味もない一言二言を言いながら顔をそのまま背けた。

その日に起こったことはきっと事故だった。
意図的なものでは無かった。

その時、アジトにジョングクとユンギがいるとは思わなかった。

校長は僕が弟達をかばったんだと疑った。
僕はいい生徒ではないと言うことをお父さんに言うと、何か述べなければんばらなかった。

アジトの話をしたのは誰もいないと思っていたからだ。
ところがユンギが退学させられる事まで起こった。

僕がどのような事をしたのか知っている人はいなかった。

「楽しい夏休みを過ごしてくださいヒョン、連絡しますね。」
僕の無視をどう解釈したのホソクがそっと手を離して、より明るく挨拶をした。

今回も僕はなんの返事もできず、話せる言葉もなかった。

校門を出た時、初めて登校した日を思い出した。
遅刻をして一緒に罰を受けた。
それで笑うことが出来た。
その時間を僕が壊した。

花様年華 the notes・ホソク 20/9/15

ジミンの母親が救急室を横切って歩いてきた。

ベッドに掛かった名札と点滴を順番に確認しながら、ジミンの肩に付いた葉を指で払った。
僕はジミンがなぜ救急室に運ばれてきたのかを、バス停で発作を起こした経緯についてを話す必要があると思い静かに近づいて
いった。

ジミンの母親はやっと僕に気がつき、何かを勘ぐったような視線でしばらく僕を見つめた。

僕はどうしていいかわからなくて、たじろいでいた。

ジミンの母親は「ありがとう」と一言だけ残してそのまま立ち去った。

ジミンの母親が再び僕のところにやってきたのは、医者と看護婦がベッドを移動するのに僕がついていく時だった。

母親はもう一度「ありがとう」と言いながら僕を押し退けた。
押したというよりは、ほんの少し手を触れたと言う表現が正しい。

しかし突如僕とジミンの母親との間に、見えない境界線が生まれた。

その境界線は確実なもので頑丈だった。
冷たい警告だった。
僕が決して超えることの出来ない線だった。

孤児院で10年以上暮らした。
その程度は体で、視線で、空気で判る。

後ずさりをしながら床に座り込んだ。
そんな僕の姿をジミンの母親は黙々と見つめていた。

小柄で美しい人だったが影はとても大きく冷たかった。
その影が救急室の床に座り込んでいる僕の上に覆い被さってきた。

顔を上げるとジミンのベッドは救急室の外から出ていて見えなくなった。

その日以降ジミンは学校に戻ってこなかった。

花様年華 the notes・ジミン 20/9/28

入院して何日目なのかを数えるのはやめた。

そんなことは「退院したい」とか「退院できる希望がある時」にやること
だ。

窓の外の遠くに見える木や草花達。
人々の服装からみてまだ時間はそうたくさん経っていないな、と感じた。

せいぜい1カ月ちょっとだろう。
時々制服を着た姿も見るが、もうそれも特に何も感じなかった。

薬のせいか全てのことが退屈でぼんやりするだけだった。

それでも今日は特別な日だった。
日記をつけていれば必ず書き留める必要がある日。

しかし僕は日記を書いていないし、そういう事を書き留めて間題を起すのはイヤだった。

今日僕は初めて嘘をついた。
医者の目を見ながら落ち込んだ振りをして話した。

「何も思い出せません。」

花様年華 the notes・ジョングク 20/9/30

「チョンジョングク。貴方はまだあそこに行っているのか?」
僕は返事をしなかった。

僕はただ靴のつま先を見つめて立っていた。

僕が返事をしないでいると出席簿で頭を叩かれた。
しかし、それでも僕は口を開かなかった。

それは、ヒョンたちと一緒に使った教室だった。
ヒョンたちについて回っていたら僕達はその教室を発見した。

僕がその教室(アジト)に行かなかった日は無かった。
多分、ヒョン達は知らなかった事だろう。
ヒョン達は約束があったりアルバイトが忙しかったり来ないこともあった。

数日間、ユンギヒョンやジンヒョンどちらかを見ない日もあった。
だけど僕は違った。
僕は一日も休まずその教室に行っていた。
誰も来ない日もあったがどそれは問題なかった。

例え今日来なかったとしても明日は来るだろうし、明日じゃなければ明後日には来るだろう。

「貴方は彼らの周りにいたから悪い事を学んだんだな」と言い、再び僕を殴った。
僕は視線を上げ睨みつけるとまた殴られた。

ユンギヒョンが殴られていた姿を思い出した。
歯を食いしばって耐えていた。

「僕は行っていない」と僕は嘘をついてまで言いたくなかった。

今、僕はその教室の前に再び立っていた。

僕がドアを開けるとヒョン達がそこにいるはずだった。

ゲームをしながら声を上げ遊んでいるヒョン達が振り返り、どうして僕が来るのが遅いのかと訪ねてきたり、ジンヒョンとナムジュニヒョンが本を読んでいたり、テヒョンイヒョンはゲームをしていたり、ユンギヒョンはピアノを弾いていたり、ホソギヒョンとジミンヒョンは踊っていたことだろう。

でも、ドアを開けたらホソギヒョンしかいなかった。
ヒョンは教室で僕達が置いていった物を綺麗にしていた。

僕はドアノブを握ったまま立っていた。
ホソギヒョンが近づいてきて肩に腕を回した。
それからヒョンは僕を外に導いた。

「行こう。」

教室のドアは僕達の後ろで閉じられた。
僕は突然、もうあの日の彼らは決して戻らないと気づいた。

花様年華 the notes・ホソク 21/2/25

鏡の中の自分の姿から目を離さずダンスを踊った。

ダンスを踊っていると僕は足が床につかず、体が浮かび上がり、世の中のすべての視線と基準から自由になれた。

音楽に合わせ体を動かす事、心を体に乗せる事以外は何も重要ではなかった。

初めて踊ったのは12歳の時だった。
おそらく修練会の特技披露の時間だった。

学校の友達に引っ張られ舞台に上がった。
その日の出来事の中で今でも記憶に残っているのは、拍手と歓声、そして初めて自分自身になっ
た気分になった事。

もちろんその時はまだ音楽に合わせて体を動かして楽しんでいるという程度だった。

それが喜びになり、その喜びは歓声や拍手から来るのではなく、僕の内部から来ているという事実がわかったのは随分
後のことだった。

鏡の外の僕は多くのことに縛られていた。

足が床につくと何秒も我慢ができず、嫌でも笑い悲しくても笑った。

飲む必要のない薬を飲みながら、場所を選ばず倒れた。

僕はダンスを踊る時には鏡の中の僕自身から目をそらさないようにしている。

正真正銘、僕自身になれる瞬間。

すべての重圧を捨て飛び立てる瞬間。
幸せになれると信じている気持ちを持てる瞬間。

その瞬間を僕は守る。

花様年華 the notes・ナムジュン 21/12/17

バスを待っている人達は寒さの中で手をこすり合わせた。
僕は自分のバックのストラップを掴みながら視線を下げて誰とも目を合わせないように努力した。
1日に2台しかバスが止まらない田舎の村だった。

遠くから始発のバスが近づいてくるのが見えた。
僕は皆の後に続いてバスに乗り込んだ。

僕が何かに情熱を抱いた時、僕が何かを手に入れたい時、何も残ってない時に逃げようとした時、僕なりの条件を持っていた。

僕は振り返らなかった。僕が振り返った瞬間、今までにやった僕の努力は水の泡なる。
振り返ってみると、これは一種の疑惑であり、一種の長い愛着であり、一種の恐怖であった。

僕がこれらの事を克服した時だけ僕が最終的に逃げる事ができる。

バスが出発した。
僕は計画も無かったし切実な何かも無かった。

それよりも、とにかく逃げる為の特別な理由に近かった。

母の疲れた顔、放浪する弟、父の病気。
僕は無意識に逃げる寸前だった。

日に日に難しくなる家庭事情。
平穏を徹底的に果たした僕の家。
何も知らないフリをして適応し、僕の成長を止めさせようとした家から自分自身を抑制した。

しかし、そのほとんどは貧困から逃れようとしていた。

誰かが「貧しい人は犯罪か?」を尋ねたなら誰もが「そうではない」と言うだろう。
しかし、それは本当ですか?
貧困は非常に多くのものを欠す。貴重だったものは無意味になる。諦めきれないことを諦める。
疑わしく恐ろしい成長をやめる。

バスは数時間で見慣れた停留所に到着した。

僕が一年前にその場所から去った時、僕はメッセージを残さなかった。
そして今、僕はなんの予兆も連絡もなしに戻ってきた。

僕は友人の顔を思い浮かべた。
僕は友人達全ての接触を遮断した。

彼らは、最近何をしていたの?
集まる事が出来たら嬉しいですか?
僕達が集まって当時の出来事を笑いながら話せるだろうか?

窓には霜ができていていて外の風景が見えなかった。
霧の上で僕はゆっくり指を動かした。

「生き残らなければならない」

花様年華 the notes・ユンギ 22/4/7

花様年華 the notes・ユンギ 22/4/7

ぎこちないピアノの音に足を止めた。
真夜中の誰もいない工事現場には、誰かが焚いたドラム缶の中の炎だけが音を立てていた。

さっき僕が弾いていた曲だということはすぐわかったけれど、それがなんだと思った。

酔っていた足取りがふらついていた。
わざと目をふさいで何でもないように歩いた。

炎の熱が強くなりながら、ピアノの音も夜の空気も酔いもぼんやりしていった。

突然のクラクションの音に目を開けると、自動車がスレスレに通り過ぎていった。
ヘッドライトの眩しさと車が横切りながら起こす風が自分に向かってきた。

酔いの混乱の中で、僕はなす術もなくふらついた。
運転手の罵る声が聞こえた。
足を止めて怒鳴ろうとしたが、ふとピアノの音が聞こえていないことに気がついた。

炎の燃える音、風の音、自動車が残した雑音の中でピアノの音は紛れもなく聞こえなかった。

「なぜやめたんだ?」
「誰がピアノを弾いていたんだ?」

パチっという音と一緒にドラム缶の中の火の粉が暗闇に向かって飛び散った。
その様子をしばらくの間ぼーっと見つめていた。

熱さのせいで顔は火照った。
ガンっというピアノの鍵盤を叩きつける音が聞こえてきた。

その時、反射的に後ろを振り返った。
一瞬にして血が逆流し、呼吸が乱れた。

幼いときの悪夢、そこで聞いた音のようだった。

次の瞬間僕は走り出していた。
僕の意思ではなく体が勝手に楽器店に向かって走っていた。
何となく何度も繰り返して来たことのような気分だった。
何故だかわからないけれど大切なことを忘れている気分だった。

ガラス窓の割れた楽器店。ピアノの横に誰かが座っていた。

何年も経っていても一目見ただけで誰だか分かった。
泣いていた。
拳をぎゅっと握りしめた。

花様年華 the notes・ジン 22/4/11

海に1人で来た。
ファインダー越しの中の海はいつものように広く青く開けていた。

水面に反射して揺らめく日差しも、松の森から吹いてくる風もあの頃のままだった。
変わったことがあるとしたら1人だという事実だけ。

シャッターを押すと目の前の風景がちらつき2年10ヶ月前のあの日が一瞬現れては消えた。
あの日僕たちは並んで海の前に座っていた。

疲れ果て、何も持ってなく、途方に暮れていたが、皆一緒だった。

車のハンドルを回してアクセルを踏んだ。トンネルを過ぎ休憩所を通り過ぎた。

皆が一緒に通った学校の近所に到着し、車の窓を開けた。
春の夜だった。空気は暖かく、学校の塀に沿って広がる木から桜が舞い散っていた。

学校を後にし、いくつかの交差点を過ぎ、何度かの左折右折を繰り返した。
少し離れた所にナムジュニが働くソリンスタンドの灯りが見え始めた。

ぎいぎいという摩擦音と一緒に車が止まった。
物思いにふけって信号が変わったのを見ていなかった。
見慣れた制服を着た児童生徒らが横断歩道を渡りながら、車の窓越しで僕を見つめた。

後ろ指をする人もいた。
気を使い笑って首を下げた。

何をしなければならないかも知っていた。しかし、恐怖が出ないわけではなかった。

果たして僕がこの全ての不幸と傷を終わらせる事ができるだろうか。
重なる失敗は絶対に成功できないという意味なのではないのか。
放棄しろという意味があるではないだろうか。

僕達に幸せは虚しい希望にすぎない。色んな思いが頭の中を行き来する。

いつの間にか給油所交差点に達しそこからナムジュンが給油してる姿が目に入った。
息を大きく飲みそしてゆっくりと深呼吸した。

ユンギ・ホソク・ジミン・テヒョン・ジョングクの顔を一人一人思い出した。
そして、車線を変えてガソリンスタンドに入った。
諦めることができなかった。
1%の可能性しかなくなくても放棄しないだろう。
車の窓越しにナムジュンが来るのが見えた。

花様年華 the notes・ナムジュン 22/4/11

買ったばかりのTシャツを探していたが、テヒョンが後ろから手を伸ばしシャツ1枚を掴んでいった。
今僕が着ているのと全く同じ文字がプリントされたTシャツだった。
テヒョンは照れ臭そうに笑いながら、破れたシャツを脱いだ。
コンテナの中に引っ掛けてある薄暗い照明の下でアザの出来た背中を見た。
ホソクはびっくりした目で僕を眺めた。
テヒョンは僕のTシャツを着て薄汚い鏡に自分の姿を映した。
そして笑った。

「こいつグラフィティで警察に捕まりそうになったのを引っ張ってきて遅れました。」

僕はテヒョンを小突く振りをし、テヒョンも大袈裟に申し訳ない素振りをした。
トレーラーの隅に座っていたユンギがゆっくり近づくとテヒョンの肩をポンと叩いた。

花様年華 the notes・ジョングク 22/4/11

結局僕の願い通りになった。
道端で出会った不良たちにわざとぶつかり思いっきり殴られた。
殴られながら笑ったら狂った奴だとさらに殴られた。

シャッターのドアにもたれ空を眺めた。
既に夜だった。真っ黒な空には何も浮かんでなかった。
少し離れたところに草が生えているのが見えた。
風が吹くと倒れた。僕みたいだった。
涙が出そうだったのでわざと笑った。

目を閉じると義父が空咳をする姿が見えた。
義理の兄が蹴って笑った。
父の親戚たちは見て見ぬふりをし関係のない話をした。

まるで僕がそこにいないかのように僕の存在は何でもないような行動だった。

彼らの前で母親が慌てふためいていた。
地面から立ち上がると埃が舞い上がり咳が出た。
みぞおちの周りがナイフで刺されたように痛かった。

工事現場の屋上に登った。
夜の都市が不気味な色で覆われていた。
手すりの上に登り両手を広げて歩いた。
一瞬足がふらっとしてバランスを崩しかけた。
後一歩で死んでしまうだろうという思いが頭によぎった。
死んだら全てが終わりなのに誰も僕がいなくなったとしても悲しまないのに

花様年華 the notes・ジョングク 22/5/2

頭を上げたら、僕はナムジュニヒョンのコンテナの前にいた。
ドアを開けて中に入った。僕は周りに散らばっているすべての服を集めた。それらを僕の上に置いて、眠るために丸くなった。体全体が揺れ、泣きたかったんだと感じた。しかし、泣き声さえもでなかった。僕がドアを開けて入った時、ユンギヒョンはベッドの上に立っていた。ベッドのシーツ端に炎が上がっていた。その瞬間、僕の全身は、耐えられない怒りと恐怖で包まれた。僕は話す事が得意なタイプではなかった。僕の感情を表して、人々を説得する事はなかなかできなかった。涙が浮かび上がり、咳が出て、さらに話すことができなかった。僕は火の中を走った。僕が辛うじて言う事ができたのは「一緒に海に行く事を約束した。」「どうしたの?悪い夢でも見たのか?」誰かが僕の肩を揺さぶった時に目を開けた。ナムジュニヒョンだった。僕には説明できない慰めがあった。ヒョンは僕の頭に触れ、僕は本当にやったかのように感じた熱を持っていると言った。僕の口の中は沸騰してるような気がしたけど、寒くて冷たくて頭がガンガンして喉が痛い。ヒョンが持ってきてくれた薬を辛うじて飲めた。「もう少し寝なさい。僕達はまた話せるから」頷いて僕は言った。「ヒョンのような大人になれると思いますか?」ナムジュニヒョンは背を向けた。

花様年華 the notes・ジミン 22/5/19

結局、草花樹木園に行かなければならなかった。
その場所であったことを、覚えていないという嘘をやめる必要があった。

病院に隠れて生きることも発作を起こすこともやめなければならなかった。

その為にはその場所に行って見る必要があった。
こんな気持を持ったまま、数日後にその停留所を見つけた。

しかし草花樹木園行きのシャトルバスに乗る事ができなかった。

ユンギヒョンが横にきてどかっと座った。
今日だけで3台を見送った後だった。

「どうしたの?」と聞くとヒョンは「やることが無くて退屈だったから」と言った。

「だけど、どうしてお前はここに座っているの?」と、尋ねた。
僕は頭を下げたまま靴の先で地面をとんとんと叩いた。

僕は何故ここに座っているのかと考えた。
勇気が無かったのだ。

もう大丈夫なふり。何かを分かっているふり。そんな事くらいは乗り越えられふりをしたかったけど、何に出くわすのか、それに耐えることができるのか、まだ発作しないか全てが恐ろしかったのだ。
ユンギヒョンは余裕にさえ見えた。
「この世の中に急ぐことなんて無いように天気はいい」
などとどうでもいい事を言った。

緊張し過ぎていたせいで周りをみる余裕が無かった。
空がとっても青かった。
時々暖かい風も吹いた。
少し離れた所に草花樹木園行きのシャトルバスが来ていた。
バスが止まりドアが開いた。
運転手さんが僕を見て衝撃的にこう言った。
「 ヒョン 一緒に行ってくれますか?」

花様年華 the notes・ホソク 22/5/20

テヒョンを連れて警察署を出た。
「お疲れ様です。」と、力強く言われたがそんな気分では無かった。

警察署からテヒョンの家まではそれ程距離はない。
もし警察署から遠い所に住んでいたらテヒョンは何度も警察署に出入りしなくて良かったのかもしれない。
何故、テヒョンの両親はこんなに警察署の近くに在り着いたのか。

こんなにも馬鹿みたいに優しくて弱いやつで世の中は本当に不幸だと思った。

テヒョンの肩に腕を回して「お腹空いたか?」と何でもないように尋ねた。
テヒョンは首を横に振った。
「警察署のお兄さん達がご飯でも買ってくれたのか?」
また聞いてみたがテヒョンは何の返事もしなかった。

日の光の中を二人で歩いた。
心の中で冷たい風が吹いた。
僕の心がこうならテヒョンはどんな気持ちだろうか。
心がどんなに沢山引き裂かれて壊れたのだろうか。
果たして心が残っているか、心の中にどれほど多くの苦しみがあるのか。

そんな考えをしていたから、顔をまともに見る事が出来なくなり、代わりに空を見上げた。

曇った日差しの中で飛行機が一機過ぎていった。

テヒョンの背中の傷を初めて見たのは、ナムジュンのコンテナで会った時だった。
Tシャツを貰ったと無邪気に笑うテヒョンの顔に向かって誰も口を開く事は出来なかった。

僕には両親がいなかった。お父さんの記憶は少しも残っていなくて、お母さんの記憶も7歳の時までの記憶しかなかった。
子供の頃についた家族に対する傷なら、誰と比較しても羨ましくなかった。

人は言う。
傷を克服しなければならない、受け入れて和解し許さなければならない。そうしてこそ生きる事ができると。

知らない訳ではない、嫌で拒否するわけでもない。
いくつかの事をしようとすると達成されない。誰も方法を教えてくれる人はいなかった。

世の中は鈍くなる前に新しい傷を与えた。
世の中に傷のない人はいないという事は知っているが、ここまで深い傷がどうして必要なのか。
何のために必要なのか。
なぜ、このような事が出来るのだろうか。

「大丈夫です一人で行けます。」分かれ道でテヒョンが話した。
聞こえていたが僕は気にせず先に歩いた。

「本当に大丈夫ですからね。見てください。何ともありません。」
テヒョンが笑って見せた。
僕は答えなかった。

大丈夫なはずがなかった。全く大丈夫じゃないのに認めると耐える事が出来ないから無視をする。
それが癖になっていた。
テヒョンがフードを被りながらついてきた。

「本当にお腹空いてないの?」
テヒョンの家に繋がる廊下にきた時尋ねたらテヒョンは明るい笑みを浮かべて僕を見ながら首を振った。

廊下を歩く後ろ姿を見て転じた人が歩いた廊下も僕が帰っていく道も狭くて荒れ果ていた。僕も一人だった。
ふと後ろを振り返った時、電話が鳴った。

花様年華 the notes・テヒョン 22/5/22

ヒョンが電話を受けながら後ろに遅れて歩くのを見たのは松の森を過ぎた時だった。
最近にってからそういう行動が多かった。
他の人たちに聞こえないよう遠く離れて電話をしていた。
僕はわざとゆっくり歩きながら海の方ヘ身体を隠した。

ヒョンは僕を見つけられず通り過ぎた。

「僕より1歳幼いだけじゃないですか。
いや僕も別に関係ないです。どうせ僕が責任取れることでもない
し、本人が処理するでしょう。」

何か冷たいものが背筋を降りてきた。
世の中の全てがガラガラと崩れるようだった。
深い海の中に一人ぷかぷかと漂っているようだった。
怖くて恐ろしかった。
惨めでみすぼらしかった。
怒りが込み上げた。怒りを抑えることができなかった。
どんなことでも起こしてやろうと思った。
壊し殴りめちゃくちゃにしたかった。
いつも怯えていた僕にも父親の血が流れていた。
暴力性が潜んでいると思った。
何かがギュッと縛っておいた防御幕を破り出てくるようだった。

花様年華 the notes・ナムジュン 22/5/22

「僕達は辛うじて一年離れていない。」
僕が知っているヒョンがそう言った。

彼は、
「永遠に子供でいる事はできない」と僕に言った。

それは、彼が今より独立して分けなく物事を行う為の時間ではない。
確かに僕は言った。

「いいえ、怒ってはいません。」

電話を切り床を見た。
「ごめんなさい。」
暖かい海の空気が松の木の森を襲った。
僕の心の中に詰まって爆発するように感じた。

アリは砂と土を混ぜた地面に線を付け、ある目的地に向かっていた。
物理的にも象微的に大きな存在を持つ人がいた場合、が何処に向かうのか。
何故そこに向かうのか。
最終的にどのように僕は終わるのだろうか?

僕は、両親が好きではなかった。
弟の事は心配しなかった。

それが可能ならば、僕は僕の頭を遠ざけたくはなかった。
しかし、選択肢がなければ、僕はただの僕であり、僕は待つ事ができなかった。

つまり、僕が苦しんで、怒って、息苦しくなり、こんな風に逃げ出したいというのは、どういう意味なのか?
さっきと同じように地面に釘付けになって立っているように見える誰かの後部を見た。

それは、ジョングクだった。

「僕は、ヒョンのような大人になれると思いますか?」
とジョングクが言った時、その時は言えなかった。

いい大人じゃないのに。

その時僕は、あまりにも酷いことを言ってしまいそうになった。

愛と関心を僕は受け、そして愛を受けなかった若い友人。

僕は年に年を重ね、背が高かくなり、それだけでは大人にはなれないと彼には言えなかった。

僕は、ジョングクの将来は僕よりも良いことを望んだ。しかし、僕は彼にそれを約束する事はできなかった。
僕は彼に近づき、彼の肩の周りに腕を置いた。

ジョングクは僕に目を向けた。

花様年華 the notes・ジョングク 22/5/22

浮かんだと思った体は、いつの間にやら硬い地面にある。
しばらく何も感じなかった。
ただ全身が耐えられないほど重くて、瞼もあけることができなかった。

つばを飲み込むことも、息をすることもできなかった。
意識が分散し、徐々に周りが薄れていった。

そうすると、何かにビックリしたように、全身が発作的にけいれんした。
特定できない痛みと喉の渇きの中で、僕は思わず目をさました。

砂がいっぱい入ったかのように、ザラザラした視野の向こうに、何か見え隠れしていた。

光と思ったが、そうではなかった。
明るく、大きく、ぼんやりしていた。
動かずに、空中に浮かんでいた。
しばらく眺めていると、それは次第に正確な形状を表していった。
月だ。

首が後ろに折れたかのように、世界がひっくり返っていた。その世界では、月も逆になっていた。
息をするため咳をしようとしたが、動くことができなかった。
そして、寒気を感じた。
怖かった。口は動かせたが、言葉は出なかった。
目を閉じていないのに、目の前が徐々に暗くなっていった。

遠ざかっていく意識の中で、誰かの声が聞こえた。

「生きることは、死ぬことよりも苦しいのに、それでも生きたい?」

花様年華 the notes・ホソク 22/5/31

突然息が詰まりとっさに視線を避けた。
しばらくの間踊っていた後だったので呼吸が乱れていたけれど、そういう脈絡ではなかった。
母親に似ていると思った。
いやそれは考えとか認識とかの部類ではなく、説明したり描写したり出来ることでもなかった。

もう10年以上知っている友達の顔をまっすぐに見つめることができなかった。

一緒にダンスを習い一緒に失敗し挫折しながら励ましあってきた。
汗だくになって床に寝そべったり、タオルを投げ合いふざけて遊んだりもした。
その間一度も感じなかった感覚に触れたような気分に、僕は慌ててその場から立ち上がった。

廊下の角を曲がってすぐの壁に背中を当てながら立ちつくした。
ドキドキする呼吸を落ち着かせようと努力したが「どこ行くの?ホソガ」
という声が聞こた。

「声」もしかしたら似ているかもしれないという考えがよぎった。
ホソガという呼び声。
今では記憶から薄れてしまった、僕の7歳の時を蘇らせる「声」

花様年華 the notes・ユンギ 22/6/8

またTシャツを脱いだ。鏡の中の自分はとてもじゃないが自分のようではなかった。

DreamというTシャツは全くもって僕のタイプではなかった。
赤い色も夢という単語もタイトなことも全て気に入らなかった。

イライラしてタバコを出しライターを探した。
ジーンズのポケットにライターは無かったのでカバンを漁りながら気が付いた。

持って行かれたことを、何の遠慮もなく僕の手から奪っていったこと、そして投げ返してくれたのは棒付きキャンディーとこのシャツだった。

頭を掻き乱しながら起き上がるとショートメールのアラームが鳴った。
携帯電話の画面の名前三文字を見た途端、突然周囲が明るくなり心臓がバクバクし落ちるようだった。

メッセージを確認してタバコを半分に折り曲げた次の瞬間、鏡の中の僕は笑っていた。

Dreamという赤色のタイトなシャツを着て何がおもしろいのか馬鹿みたいに笑いを浮かべていた。

花様年華 the notes・ジン 22/6/13

あの海から戻った後、僕たちは皆独りだった。

まるで決めておいてあったかのように、僕らは互いに連絡をしなかった。
路上に残されたグラフィティ、明るく照らされたガソリンスタンド、古びた建物から聞こえてくるピアノの音だけで、互いの存在を推測するに過ぎなかった。

そのたびに、あの夜の残像が幻影のように蘇った。

火花が飛び散ったようなテヒョンの瞳、信じられない話を聞いたというように僕を見る視線たち、テヒョンを止めたナムジュンの手、耐えきれずにテヒョンに向かって拳を振り上げた僕。

飛び出したテヒョンを探すことが出来ずに、戻って来た海辺の宿にはもう誰の姿も残っていなかった。
割れたグラス、渇いて固まりになった血の跡、砕けたお菓子の欠片が、数時間前の出来事を悟らせるだけだった。

そこに写真が1枚落ちていた。

海を背景にして精一杯気取って撮った写真の中で僕達は皆一緒にいて、笑っていた。

今日もガソリンスタンドの前をそのまま通り過ぎた。

いつかまた会える日が来るだろう。
写真のようにまた一緒に笑える日が来るだろう。
自分自身とちゃんと向かい合える日が来るだろう。

しかし今はまだその時ではなかった。

今日もあの日のように湿った風が吹いていた。
そして次の瞬間、まるで警告のように携帯電話が鳴った。
ルームミラーにぶら下げて置いた写真が揺れた。

携帯にはホソクの名が表示されていた。

「ヒョン ジョングギがあの夜、交通事故にあったって」

花様年華 the notes・ユンギ 22/6/15

頭の中を鳴り響かす音楽以外は何も認められなかった。
どれ程お酒を飲んだのか、ここが何処なのか、何をしていた所なのか知りたくても重要では無かった。

ふらつきながら外に出ると夜だった。そのまま流されて歩いた。
通行人なのか自動販売機なのか壁かわからないが無造作にぶつかった。
どうでもよくて、全て忘れてしまいたかった。

ジミンの声がまだ響くようだった。
「ヒョン ジョングクが」
次の記憶は狂ったように病院の階段を登っていたものだった。

病院の廊下は異常な程に長く暗かった。患者服を着た人達が通り過ぎていった。
心臓が激しく響いた。

人々の顔が青白く表情も無かった。
みんな死んだ人のようだった。

頭の中で僕の呼吸音が激しく揺れた。
少し開いた病室のドア越しにジョングクが横たわっていた。

思わず顔を逸らしてしまい見られなかった。
その瞬間、突然ピアノの音が炎が、建物が崩れ落ちてくる音が聞こえてきた。
頭を抱え込んだまま座り込んだ。

「お前のせいだ」って、「お前がいなければ」と言う母の声、いや僕の声、いや誰かの声。
その言葉に出来ない時間を苦しんでいたと信じてくれ。

ところがジョングクがあそこに横たわっていた。死人のような顔をした患者達が行き来する廊下にジョングクが横たわっていた。
とても入ることが出来なかった。
確認ができなかった。
立ち上がったら足がふらついた
病院から出ると涙が出た。
おかしな事だよ。最後に泣いたのがいつだったか思い出せない。

横断歩道を渡ろうとした時、つまずき誰かが腕を掴んで、風がサッと吹いた
「誰ですか?」
いや、関係ない誰でも同じだ。

側に来ないでそのまま放っておいてくれ、傷つけたくない傷を受けたくない。

花様年華 the notes・テヒョン 22/6/25

わざとゆっくり歩きながら僕の後についてくる気配に耳を傾けた。
コンビニで会ったのは今日で3回目だ。

変わったことと言えば今日は僕を見るなり逃げ出した。
そうしてコンビニの裏側の小さな隙間に潜み僕が現れると姿を隠した。

自分では隠れているようだが影が隙間から前に長く伸びていた。
にんやりと笑いが出た。

気づかないフリをして歩くと僕の後についてきた。
狭い道に差し掛かった。
この街で街灯が割れていない所はここだけだった。

道は長く街灯はその中間にあった。
光源が前にあるときは影は後に出来るので、今僕の影は僕の後ろに長くひいている筈だ。
もしかすると影は息を殺しついてくる気配の足元まで到達しているかも知れない。

そして街灯のすぐ下に着いたとき影は僕の足元に隠れた。
僕は少しだけ速足で歩き出した。街灯が背後に当たりながら影は僕を通り過ぎていった。

しばらくすると僕の影では無いもう一つの影が埃の舞い上がるアスファルトの道に現れた。
歩くのをやめるともう一つの気配も立ち止まった。
お互い背丈が違う影が2つ並んで止まった。

僕は言った。
「ここに来るまで待ってる」

影は飛び跳ねるように驚き、そしてまるで自分はそこにいないかのように息を殺した。

「全部見えるんだけど」
僕は影を指差した。
するとわざとコツコツと大きい音を立てながら足音が近づいて来た。
笑いが出た。

花様年華 the notes・ナムジュン 22/6/30

体自らが意思を持っているかのように「開く」ボタンを押す姿を僕は意外な気持ちで眺めていた。
こんな瞬間があった。
間違いなく初めてなのに何度も繰り返したような気分がする瞬間。

閉まる直前のエレベーターのドアがまた開き、人々が押し寄せてきた。
その中に黄色いゴムで髪を結んでいる人を目で探した。
その人がいると知りながらボタンを押したのではないが、居るのが当たり前だという気持ちがしていた。

一歩ずつ後ろに下がり冷たいエレベーターの壁が背中にあたって顔を上げると黄色いゴムが目に入った。

後ろ姿は多くを語ってくれる。僕はその後ろ姿の中のいくつかを理解するだけだ。
ある事は何となく予想することができ、ある事は最後まで理解できないままだ。

ふとした時、後ろ姿で全てを読むことが出来て、初めてその人を理解したと言えるのではないかと思った。
それなら僕の後ろ姿を見て、僕を全て理解できる人々もいるのではないだろうか?

顔を上げると鏡の中で視線がぶつかった。とっさに目を逸らした。
こんな事はよくあった。次に見上げた時には鏡には自分の顔だけが見えた。

僕の後ろ姿は見えなかった。

花様年華 the notes・ジミン 22/7/3

結局、床に横になった。
音楽を消すとあたりは急に静まりかえって僕の呼吸の音と心臓の音以外何も聞こえなくなった。

携帯電話を取り出してお昼に習ったダンスの映像を再生した。
映像の中で、ヒョンの動きは柔らかく正確だった。
それが多くの時間と汗、練習の成果だということ、そしてまだまだの僕にとっては高望みであることはわかっていた。

それでも理解と願望は違うもので、僕は繰り返しため息をついた。
もう一度起き上がった。

ターンはなんとか真似ることができたけれど、ステップが何度やってもこじれた。
場所の移動をしながら動線を合わせるパートで何度も失敗した。

明日は合わせてみようと言っていたから、その時までにどうにかきちんとやってみたかった。

「なかなかやるじゃん」
冗談っぽい賞賛ではなく、ヒョンと呼吸が合わせられたときのように真剣で対等なパートナーとして認められたかった。

花様年華 the notes・ジミン 22/7/4

気がついたとき僕は肌がむけてなくなるほどに腕を洗っていた。
息が上がって手がブルブル震えて、腕にそって血が流れていた。
鏡の中の目は血走っていた。

少し前の事が断片的に浮かんだ。
一瞬集中力が乱れたダンススクールのお姉さんが、呼吸を合わせて踊るダンスをしている時に動線がもつれぶつかった。

荒く床に転がり倒れて、腕から血が出た。
その瞬間、草花樹木園であったことが浮かんだ。
克服したと思ってい事だったのに。
しかしそうではなかったのだ。

逃げなければならなかった。
洗い流さなければならなかった。
顔を背けなければならなかった。

鏡の中の僕は雨の中を転がったように逃げていた8歳の子供のままだった。

するとふと浮かんだ。
お姉さんも一緒に転がったのに練習室には誰もいなかった。
わずかに開いたドア越しに激しく雨が降っていた。
少し離れた所に ホソギヒョンが走って行くのが見えた。
その雨にすべて打たれていた。

傘を持って飛び出した。走った。結局立ち止まった。僕に出来ることはなかった。
僕なんかがしてあげられることは倒れて怪我をさせたり、僕が怪我をさせたのにブルブル震えながら放り出したり、遅れて走ったら止まるのが全部だった。
振り返って歩いた。
歩く度に運動靴に雨水がはねた。
自動車のヘッドライトが素早く過ぎていった。
いい事はなかった。違う大丈夫だった。
痛くなかった。この程度は傷でさえなかった。僕は本当に大丈夫だった。

花様年華 the notes・ホソク 22/7/4

彼女が応急処置を受けている間、僕は廊下に立っていた。
夜だというのに病院の廊下は人々で混雑していた。

汗と雨で濡れた髪の毛から水滴が落ちた。
僕は彼女のバックを落としてしまい色んな物が散らばった。

何枚かの小銭が転がって、ボールペンやタオル、その真ん中には飛行機の電子チケットがあった。

僕はそれを拾って、バーコードを読み込もうとした。
その瞬間、医者から電話があった。

医者は軽度の脳しんとうだから心配する事はないと言った。
そして、暫くしてから彼女が出てきた。

「大丈夫?」

彼女は
「頭が少し痛むだけだから」と言って僕からカバン持っていった。

それから、彼女は電子チケットを見つけ出して僕の顔を見上げた。
バックを反対の肩に移した。

僕は、何も知らない無いふりをしなければならないと思った。

僕達は病院を出たら今までと変わらない激しい雨が降っていた。
僕達はドアの外に並んで立った。

「ホソガ」 と彼女は言った。
彼女は何かを言いたそうにしていると思えた。

「ちょっと待ってて、傘買ってくるから」
僕は雨の中を思い切って走った。
遠くにはコンビニが見えた。

僕は以前、彼女が海外のダンスチームの為にオーディションを受けていた事を知っていた。
飛行機のチケットは彼女が受かった事を意味した。
僕は彼女の話を聞きたくはなかった。
彼女を祝福する自信がなかったんだ。

花様年華 the notes・ナムジュン 22/7/13

図書館からガソリンスタンドまでの間、バスの窓にもたれて頭を休ませた。

バスの窓のから見える風景のルートを僕は毎日通っている。
窓から通り抜けた景色は全てが怖かった。

果たしてこの景色を置き去りにする日が来るだろうか。

明日はどうなっているのだろうか。
僕は、明日が何をもたらすかを予測する事も、何かを願う事もできないと感じた。

僕の前には女性が座っていた。
彼女の髪の毛はヘアゴムで結ばれていた。
彼女がため息をしているのが肩から精一杯伝わってきた。
その後、彼女は窓に頭を休ませた。

約1ヶ月前から同じ図書館で勉強をして、同じ停留所でバスに乗っていた。
僕達は互いに言葉を話さなかったが、同じ風景を見て、同じ時間を生きていて、同じため息をはいた。

ズボンのポケットにはヘアゴムがまだ入っていた。
彼女はいつも僕より3つ前の停留所で降りた。
彼女が降りるのを見る度に、またチラシを配りに行くのか?と疑問に思った。

彼女はどんな時間を過ごしているのか。
彼女はどんな事に耐えているのか。

明日は来ないかもしれないという思いで、彼女は息苦しさを強く感じたのだろうか。
それとも最初から明日のような事は無かったのだろうと感じたのか。

僕はそのような事を考えていた。
彼女が降りる停留所に近くなり始めた時、誰かが停車ボタンを押して他の乗客が座席から立ち上がった。

しかし、その中で彼女は気が付いていないようだった。
彼女は頭を窓に寄り添ったままで眠っているようだった。

僕が行って彼女を目覚めさせるべきかと僕はしばらく自分と葛藤した。
バスが停留所に近づいたが彼女はそのままだった。

人々がバスを降り始めドアが閉まりバスが出発した。
彼女は、その後3つの停留所を通過しても目覚めなかった。

僕はバスのドアに移動した。僕は再び僕自身と戦った。
僕がバスを降りると誰も彼女を気にとめないことは明らかだった。

彼女は何処で目覚めるだろうか。
彼女は何処か遠くの停留所で目覚めるだろう。
今日一日がどれ程疲れているのだろうか。

僕はバス停を離れてガソリンスタンドに向かって歩き始めた。
バスは通常通りに出発し、僕は振り返らなかった。

僕は彼女のバックの上にヘアゴムを残した。
それは始まりではなく終わりでもなかった。
それが何かになる理由はなかった。
だから本当に何も関係ないと僕は考えていた。

花様年華 the notes・ジョングク 22/7/16

窓際に立ち、イヤホンをつけたまま少しずつ追いかけて歌った。
すでに一週間になる。
もう歌詞を見なくても一緒に歌うことができた。
片方のイヤホンを外し、自分の声を聴きながら練習をした。
歌詞がきれいで好きなんだと言ったけれど、まさにその歌詞が恥ずかしくて頭を掻いた。

大きな窓に7月の日差しがいっぱいに差し込んだ。
風が吹いているのか、緑の葉っぱたちが少しずつ揺れながらきらめいて、そのたびに僕の顔に降り注ぐ日差しの感触も変わった。

目を閉じると視界のなかに広がる、黄色くて赤くて、青い色彩を見ながら歌を歌った。
歌詞のせいなのか、日差しのせいなのか。
胸の中でなにかが膨らんできて、くすぐったくて、少し痛かった。

花様年華 the notes・テヒョン 22/7/17

僕の横側は引き裂かれる程の傷で酷く痛んだ。

汗が滴り落ちた。
コンビニ、高架下、空き地、鉄道を隅々まで探したけど彼女は何処にもいなかった。
僕はバス停まで走ったが、思った通り彼女はいない。

バスを待っている人達は僕を奇妙な目で見ていた。

「何があったの?」

僕達は会う約束はしていなかったが、何だか変だと思った。

彼女はいつも何処から現れては僕の周りを追いかけてきた。
迷惑だと言っても彼女は聞く耳を持たなかった。
しかし、今は彼女と一緒に行った場所に行っても彼女の姿を見つける事は出来なかった。

僕は見慣れた壁に来たが、目の前で歩みが遅れた。

僕達が一緒に書いた落書きが残っていた。
彼女が初めて描いた落書きだった。

その上に大きく『 X 』と書かれていた。
それを書いたのは彼女だった。

僕は彼女がそれを書く姿を見てはいなかったが、僕は知っていた。

「どうして書いたの?」その質問に返答は無かった。

その代わりに、いくつかの残像が壁に重なった。

僕は線路に横になって頭を乗せた後、その僕を見て彼女は笑っていた。

窓の中に家族写真が飾ってある写真スタジオの前を通り過ぎようとしたその時、僕は怒っている彼女顔を見た。
通り過ぎる学生達、僕も気付かない内に重なっていた視線。

彼女も気づいていなかった。
僕は一緒にスプレーでこの壁に落書きをしながら話した。

「辛い事があるなら気にせずに僕に言ってくれ」

『 X 』はそれら全ての思い出を意味しているように書いていた。
それは、全てが偽物だと言っているように思えた。
思わず拳に力が入った。

何故なのだろうか。
もちろん返答などない。

僕は歩き続けた。
僕も彼女はもう一人だった。

花様年華 the notes・ジョングク 22/7/26

病院の花壇からこっそりと花を折った。
僕は笑顔が出続けていたので、それを隠す為に頭を下げるなければならなかった。

真夏の日差しは眩しい程に輝いていた。

僕は病院のドアをノックしたが返事がなかった。
再びノックした。
少しだけ扉が開いた。

病院の中は何故かひんやりしていた。
誰もいなかった。

それはとても静かな闇に満ちていた。

僕は病院を後にした。

モヤモヤともどかしい気持ちになり、車椅子を凄い勢いでこいでいた時、僕は彼女に出会った。
僕は止まる時間がほとんど無く、そこには髪の毛を一つ結びにした女の子が立っていた。

病院から出たらベンチが見えた。
僕達は一緒に音楽を聴いたり絵を書いたりそこに座っていた事を思い出した。

屋上ではイチゴミルクを一緒に飲んだこともあった。

僕の手にまだ花を持っていた。
それを渡す人はもういなかった。

花様年華 the notes・ジン 22/8/3

【BTS防弾少年団】花様年華 the notes 和訳 3 August YEAR 22 석진ジンソク公開

花様年華 the notes・ジン 22/8/15

僕は知らないうちに急ブレーキを掛けていた。
渋滞の交差点を抜けて速度を早めた時のことだった。

後ろの車が苛立ってクラクションを鳴らしながら通り過ぎ、誰かがヤジを飛ばしたようだが都会の騒音に紛れてよく聞こえなかった。

右側の通りの角に小さな花屋が見えた。
店を見て急ブレーキを掛けたのではい。逆に急ブレーキの後でお店を発見した気分だった。

内装工事の途中の花屋の片隅で書類を整理していた主人が近づいてくる時までは大きな期待はしていなかった。
既に何カ所もの花屋を回っていたがフローリストでさえその花の存在をよく知らなかった。

似ている色の花を見せてくれるだけだった。

しかし僕は似ているものを探している訳では無い。
花だけは本物である必要があった。

主人は花の名前を聞くとしばらくの間僕の顔を見つめた。
そしてまだ店は正式にはオープンしていないけれど配達は出来ると言った。

そして店主は尋ねた。
「何故その花が必要なのですか?」

ハンドルを回してまた道路に戻りながら考えた。その花が心ず必要な理由は一つしかない。
幸せにしてあげたかったから、笑わせてあげたかったから、喜ぶ姿をみたかったから、いい人になりたかったから。

花様年華 the notes・ジン 22/8/30

愛が始まった瞬間を記憶することができる人はいるのだろうか。
愛が終わる瞬間を予測することができる人はいるだろうか。
人間にその瞬間を認知する能力が与えられていないのはなぜなのか。
そして、僕にその全てを戻す能力が与えられたのは何の為だったのか。

車が急停止をして、ヘッドライトが点滅し、ぶつかり跳ね返って上がったり下がったり。
大変なことが起こっている前で僕は無防備に立っているだけだった。

なんの音も聞こえず何も感情もないまま。

夏なのに風が冷たいように感じた。
道路に沿って何かが転がり落ちる音が聞こえた。
すると、花の匂いがしてやっと少し現実感が戻ってきた。

スメラルドの花束が僕の手からバタッと落ちた。

少し離れた道路の真ん中に彼女いた。
彼女の髪の間からは血が滲み出ていた。
赤黒い血が道路に沿って流れていた。

僕は考えた。
「時間を巻き戻すことができたら」と。



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  1. た-が より:

    すごいです。こんなにちゃんとまとめてサイト初めてでとても感激です。
    ずっとストーリーがバラバラになっていたので、時系列でまとめてくれていることに感謝します。

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